投資を続けていると、「今は高値だから一度売って、もっと下がったときに買い直そうかな」と考えることはありませんか?あるいは、最近のトランプ関税ショックのようなニュースを見て「これからもっと下がるに違いない、今のうちに売っておこう」と思ったりしていませんか?
実は、多くの投資家が同じような考えに誘惑されています。特に投資を始めたばかりの方は、市場の上下動に一喜一憂してしまい、「タイミングよく売り抜けて、また安く買い戻せば儲かるはず」という思考に陥りやすいものです。
私自身も投資をはじめてからこれまで、「今売って、もっと下がったら買い直そう」と思った場面が何度もありました。しかし、実際にそれを実行するのは難しく、むしろ長期的な視点で投資を続けることで資産を着実に増やすことができています。
今回は、そんな「一時的に売りたくなる瞬間」と、それを乗り越えるためのメンタル戦略について、最近のトランプ関税ショックを例に解説していきます。
はじめに結論:投資で「売りたくなる」3つの局面
結論から先にお伝えすると、投資中に「ここで一旦売ろう」と強く思うタイミングは主に3つあります。
- 初期の上下動に振り回される時期:投資を始めたばかりの頃、評価損益がプラスとマイナスを行ったり来たりする時に「もっと良いタイミングで買い直そう」と考える
- 順調な成長から急落するとき:資産が順調に増えてきたと思ったら急落する時(例:今回のトランプ関税ショック)に「もっと下がる前に逃げよう」と焦る
- 回復の兆しから再下落するとき:急落後に回復して安心したと思ったらまた下落する時に「次は賢く売り抜けよう」と思う
この3つの場面は、どんな投資家も必ず経験する「売りたい誘惑との闘い」です。しかし、これらを乗り越えるコツを知っておけば、市場のタイミングを計ろうとする罠に陥らず、長期投資で資産形成に成功する可能性が高まります。
本記事では、特に最近話題になっているトランプ関税ショックを例に、これらの売りたくなる局面を乗り越えるための具体的な方法を解説します。投資で大切なのは、売り時を予測することではなく、売りたい誘惑をコントロールすることだということが分かるでしょう。
理由:なぜ突然「売りたい」と思ってしまうのか
投資を続けていると、突然「今が売り時だ」と思い込んでしまうことがあります。なぜ私たちはそのような考えに至るのでしょうか。その背景には、人間の心理的なメカニズムが関係しています。
H3: 損失回避バイアスと投資心理
私たちの脳は、利益を得ることよりも損失を避けることに敏感にできています。これは「損失回避バイアス」と呼ばれる心理現象です。実は、同じ金額の利益と損失では、損失による心理的な痛みの方が、利益による喜びよりも約2.5倍も強く感じるという研究結果があります。
例えば、10万円の利益があったとき「嬉しい」と感じる度合いと、10万円の損失があったときの「辛い」と感じる度合いでは、後者の方がずっと強いのです。
このバイアスがあるため、市場が下落し始めると「このまま下がり続けるかもしれない」という恐怖が強まり、「損失が拡大する前に売ってしまおう」という考えが頭をもたげてきます。
最近の市場変動がもたらす心理的影響
特に最近のような激しい市場変動は、こうした心理的バイアスを一層強めます。トランプ政権が4月2日に発表した相互関税の影響で、S&P500指数は2月19日の史上最高値から10%以上下落しました。
このような急な下落を目の当たりにすると、多くの投資家は次のように考えます:
「これはまだ始まりに過ぎない、もっと下がるはず」
「今売って下がったら買い直せば利益が出せる」
「みんなが売っているなら、私も売った方がいい」
これらの考えは、人間の自然な反応ですが、長期的な投資成績を損なう原因にもなります。特に初心者投資家は、短期的な市場変動に振り回されやすく、感情的な判断でポートフォリオを大幅に変更してしまう傾向があります。
実際、相場が下落したときに売り、その後に上昇してから買い戻すという「売り安値・買い高値」の悪循環に陥る投資家は少なくありません。これが、長期的には市場平均を下回るパフォーマンスにつながってしまうのです。
次の章では、この「売りたい誘惑」が特に強まる具体的な3つの場面と、その対処法について詳しく解説していきます。
具体例:投資で「売りたくなる」3つの典型的な場面
実際の投資経験をもとに、多くの投資家が「売りたい」と強く感じる3つの典型的な場面について詳しく解説していきます。それぞれの状況がなぜ起こるのか、そしてどう対処すべきかを考えていきましょう。
①初期の上下動に振り回される時期
なぜ起こるのか
投資を始めたばかりの頃は、小さな値動きにも一喜一憂しがちです。例えば、100万円を投資して、数日で3万円のプラスになると「うまくいっている!」と喜び、逆に2万円のマイナスになると「失敗した…」と落ち込みます。
この時期に多くの人が陥るのが「もっと良いタイミングで売り買いすれば儲かるはず」という考えです。特に値上がりした後に「高値掴みしたかも」と不安になり、一旦売って様子を見ようとする心理が働きます。
私も投資を始めた最初の数ヶ月は、毎日のように口座残高をチェックし、「今日は上がった!」「今日は下がった…」と一喜一憂していました。そして「もっと安いときに買えばよかった」「高値で売り抜けるべきだった」と後悔の連続でした。
乗り越え方
この初期の混乱期を乗り越えるポイントは、以下の3つです:
- 短期的な値動きは本質的に予測不可能だと受け入れる:相場は短期的には上がったり下がったりを繰り返すものです。初期投資額が少ない時期はその影響が特に大きく感じられますが、これは投資の自然な姿だと理解しましょう。
- チェックする頻度を減らす:毎日または毎時間チェックすることをやめ、週に1回または月に1回程度にしましょう。これだけで心理的な揺れが大きく減ります。
- 自動積立投資を活用する:定期的に一定額を投資する方法(ドルコスト平均法)を取り入れることで、「買うタイミング」を気にする心理的負担が減ります。
②順調な成長から急落するとき(トランプ関税ショックの事例)
H4: 株価調整の実態と歴史的な見方
投資を始めて数ヶ月〜数年が経ち、資産が順調に増えてきたと感じ始めたころに大きな下落が起こると、特に「売りたい」という誘惑が強まります。
今年の例で言えば、トランプ政権の相互関税発表をきっかけに起きた急落がまさにこれにあたります。2月19日に史上最高値をつけたS&P500指数は、4月に入って10%以上も下落しました。
このような状況では「もっと早く売っておけばよかった」「これからもっと下がるだろうから今のうちに売っておこう」という考えが浮かびます。
しかし、過去のデータを見ると、このような市場調整は普通のことであり、1990年以降だけでも米国株は11回もの調整局面を経験しています。そして、それぞれの下落局面からの回復には平均して約1年3ヶ月を要しました。
予測不可能な市場変動への対処法
このような大きな下落局面での対処法は:
- 歴史的な視点を持つ:市場調整は珍しいことではなく、長期的には回復する傾向があることを理解しましょう。添付資料の図4が示すように、下落後の回復は景気後退が回避されるか否かで大きく異なりますが、いずれの場合も最終的には回復しています。
- 「この下落を予測できたはず」という考えを捨てる:後知恵バイアスにより、起きてしまったことは「予測可能だった」と思いがちですが、実際には市場の短期的な動きを正確に予測することは、プロでさえ困難です。
- 危機時こそ投資計画を見直す:売却を考える前に、そもそもの投資目的と期間を再確認しましょう。長期的な目標であれば、短期的な下落は実際の損失ではなく、一時的な評価損に過ぎません。
③回復の兆しから再下落するとき
人間心理と市場の関係
市場の大きな下落後、一旦回復の兆しが見えると安心してしまいます。しかし、その後再び下落が始まると、特に強い「売りたい」気持ちが芽生えます。
この現象は「二度目の下落」として知られており、最初の下落では耐えられても、回復してホッとした後の二度目の下落で多くの投資家が耐えきれずに売却してしまいます。

上のグラフが示すように、S&P500は3月中旬にいったん回復の兆しを見せましたが、4月に入って再び急落しています。このようなパターンは、投資家の忍耐力を特に試すものです。
この局面を乗り越えるための実践的アプローチ
二度目の下落を乗り越える方法は:
- 市場の回復は一直線ではないことを理解する:回復過程では、いくつもの「偽の底」や「偽の天井」が形成されるのが普通です。
- 売るか買うかの二択思考から脱却する:「全部売る」か「全部持ち続ける」の極端な選択ではなく、リスク許容度に応じてポートフォリオのバランスを微調整することを考えましょう。
- 感情に任せた判断を避ける仕組みを作る:事前に「このような状況になったらこうする」というルールを決めておくと、感情的な判断を避けられます。
- 高配当株などディフェンシブな資産にも目を向ける:資料の図5が示すように、景気後退時には高配当株のようなディフェンシブ性の高い資産が相対的に良好なパフォーマンスを示す傾向があります。分散投資の観点からも検討する価値があるでしょう。
次の章では、これらの局面を乗り越えるための総合的なメンタル戦略についてまとめていきます。
まとめ:長期投資成功のためのメンタル戦略
ここまで、投資中に「売りたくなる」3つの典型的な局面について詳しく解説してきました。これらの状況は、まさに今回のトランプ関税ショックのような市場混乱時に顕著になります。では最後に、これらの局面を乗り越え、長期的な投資成功を実現するためのメンタル戦略をまとめていきましょう。
1. 自分の感情を客観的に観察する習慣をつける
投資において最大の敵は、外部の市場ではなく、自分自身の感情かもしれません。「恐怖」と「欲」という二つの感情が特に強く働くとき、私たちは冷静な判断ができなくなります。
まずは自分がどのような感情に支配されているかを認識することが大切です。「今の私は恐怖から逃げ出そうとしているだけではないか?」「今の判断は根拠のある決断か、それとも単なる感情的な反応か?」と自問自答する習慣をつけましょう。
2. 長期的な視点と歴史的パターンを理解する
市場は短期的には上下動を繰り返しますが、長期的には成長する傾向があります。S&P500指数は過去11回の調整局面を経験していますが、いずれもその後は回復しています。
特に景気後退が回避される場合は、下落から約7ヶ月(209日)程度でピーク水準に戻る傾向があります。一方、景気後退を伴う場合でも、いずれは回復しています。この歴史的なパターンを理解しておくことで、一時的な下落に過度に反応せずに済むでしょう。
3. 「市場のタイミングを図る」罠を避ける
「高く売って、安く買い戻す」というのは理想的に聞こえますが、実際にはプロの投資家でさえ市場のタイミングを継続的に正確に予測することは非常に困難です。
研究によれば、S&P500指数の長期リターンの大部分は、わずか数日間の大きな上昇日に集中しています。もし投資家がその数日を逃すと、長期リターンは劇的に低下します。つまり、「一時的に売りに出る」戦略は、得られる可能性のある利益よりも、失う可能性のある利益の方が大きいのです。
4. 自動化と定期的な投資計画を活用する
感情に左右されない投資を実現するためには、自動化が強力な味方になります。定期的な自動積立投資を設定することで、「買うタイミング」や「売るタイミング」を常に考える心理的負担から解放されます。
また、ポートフォリオの定期的な再バランスを行うためのルールを事前に決めておくことも効果的です。例えば「株式の割合が目標値から10%以上乖離したら調整する」といったシンプルなルールを設けることで、感情に流されない投資が可能になります。
5. 自分のリスク許容度を正直に再評価する
トランプ関税ショックのような市場混乱時には、自分自身のリスク許容度を冷静に見つめ直す絶好の機会でもあります。多くの投資家は市場が好調なときには「自分はリスクに強い」と思いがちですが、実際の下落局面で初めて本当のリスク許容度が明らかになります。
複雑な資産配分を組むよりも、シンプルに株式と現金の2つの資産だけでポートフォリオを構成し、その比率を自分のリスク許容度に合わせて調整する方法が効果的です。このシンプルさは、市場の混乱時に特に価値を発揮します。
例えば、今回のような下落局面で「眠れなくなるほど不安」と感じるなら、株式の比率を下げて現金の比率を上げる調整が必要かもしれません。逆に、下落時にもあまり動揺せず「これは買い増しのチャンスだ」と考えられるなら、現状の株式比率は適切か、むしろ増やせる余地があるかもしれません。
重要なのは、自分自身に正直になることです。「理想の自分」ではなく「実際の自分」がどれだけのリスクに耐えられるかを認識し、それに合わせた資産配分を維持することで、感情的な売却判断を避けることができるでしょう。
最後に
最後までお読みいただき、ありがとうございました。このブログでは引き続き投資初心者のあなたに向けて、わかりやすく実践的な情報を定期的に配信していきます。ブログのシェアやコメントお待ちしております。

ではまた、次の記事でお会いしましょう。ロキでした。
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